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あの時はごめんなさい

たまに思い出す話だが、スットコ息子が幼稚園の頃のことだ。
運動会を終えた夕方、ねこママは非常にくたびれて夕飯を作りたくなかった。ばあちゃんが、「私たちはあるものですませるから、そこらで食べて来たら?」と言うので、ありがたく親子4人で近所の居酒屋へ行った。
居酒屋といっても、ちゃんと夕飯になるようなものも出してくれる店なのと、スットコ亭主が飲むので徒歩でチャッと行けるところといったら、そこになってしまうのである。

店内はひどく狭く、厨房と向かい合う形でカウンターがあり、靴を脱いで上がるところに小さなテーブルがふたつある。そのひとつには作業着を着た男の客が3人いて、その頭上にテレビが置いてある。
もうひとつのテーブルに座って、注文をすませてねこママはあたりを見回し、ふと隣のテーブルの客に目を留めてぎょっとした。
ねこママと娘からみて斜め前に位置したところにいるその男性客の鼻が、溶けたようになくなっていたからである。
他にも鼻だけでなく、顔らしい形を失っているように見えるその人は、薬品なのかヤケドなのか、いずれにしても小さい子どもが見たらおびえて泣き出すような風貌をしていた。

ねこママは(まずい・・・・)と心の中で思った。
やっと3才に手が届こうというスットコ娘がおびえて泣いたらどうするか。泣くのはまだしも、相手の人も傷つけてしまう。だからと言って、注文したものを取り消して店を出るわけにもいかない。
スットコ亭主に小声で「どうしよう・・・」と言ってそれとなくその人を示すと、亭主はチラッと一瞥をくれて顔色を変えたが、どうなるものでもない。逡巡しているふうである。

娘と息子は3人の男性客の頭上にあるテレビに釘付けになったまま、その男性に気がつかない。談笑していたその男性は、ふと娘に気がつくと、咄嗟に手で自分の顔を遮断するようにして、あろうことか、ずっとその姿勢のままでいるのである。
仲間らしい人はそのしぐさには気にもとめず笑いさざめきながら飲んだり食べたりしている。その男性はそれまでは顔を気にせず楽しそうにしていたのだが、娘に気がつくなり、ずっと顔に手をやりっぱなしなのだ。

申し訳ないのと娘が気がつかないかとヒヤヒヤするのとで、食べた気もなく食事を終えて店を出たらホッとした。
もっとホッとしたのは件の男性であろうが、せっかくの仲間との語らいに、小さな子ども連れで入るという水を差すようなことをして申し訳なかったと今も思う。しかし、娘が怖がらないようにと気を使ってくれたその行為について、ねこママは今も考えることがある。

by nekotamamako323 | 2008-09-16 08:48 | う~~~~む